労働問題に関するトラブル

Q & A

労働災害・派遣労働等に関する問題

私は、勤務している会社から、長期間、残業を命じられ、その結果、うつ病になり、出社することが精神的に難かしくなってしまいました。会社に対し、どのような請求ができるでしょうか?
1)会社は、労働契約に伴い、労働者がその生命・身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をすべきという、いわゆる安全配慮義務を負担しています(労働契約法5条)。
したがって、御質問者に対する残業命令が、この安全配慮義務に反する形で命じられていた場合、わかりやすい言葉でいえば、「これだけ残業を命じられれば、一般的に誰でも精神的にまいってしまい、病気になってしまうと思われる。」といったような残業であることが認められれば、会社に対し、債務不履行に基づき、損害賠償責任を請求できます。
2)また、病気になった原因が御質問のようなものであれば、業務災害(業務遂行性あり、業務起因性あり)に該当すると思われますので、労災保険給付も請求できると思われます。
3)債務不履行による損害賠償と労災保険との関係
債務不履行による損害賠償で請求できる金額は、御質問の例でいえば、うつ病になってしまったことと相当因果関係が認められる全損害です。
一方、労災保険給付では、元々の制度趣旨が労働者において業務上疾病が生じた際の、働けなくなった場合における生活保障にありますので、損害を填補するというよりも、平均賃金の6割の休業補償をする(労基法76条1項)といった形の定額給付が中心となります。そして、両者の関係で同一補償費目(例えば、休業損害)で受け取ったものがあれば、二重には給付を受けられないという原則として補完関係にあることになります。
そして、具体的な損害を請求される際は、この他に年金保険法からの給付、労災福祉事業の特別給付金制度もありますので、弁護士等の専門家に御相談いただくと良いと思います。
私は、会社の所属する課で開かれた懇親会に参加し、終了後、自宅へ帰る際に、無灯火の自転車に衝突されて、加療2ヶ月の骨折をしてしまいました。 そして、この自転車に乗っていた人は無保険で、かつ、無職で賠償能力がありません。 労災給付を受けることは可能でしょうか?
1)御質問の事案は、本来的な業務中の事故ではありませんので、労災保険法7条1項2号、2項、3項の通勤災害として認められるかということが問題になると思われます。このような事案については、何例か裁判で、その労災給付を巡って争われています。

それらの裁判例では
①被災者にとって当該会合もしくは参加(本件でいえば、懇親会への参加)が業務といえるか否か
②業務と認められたとしても、その会合全体が業務として評価できるか(長時間飲酒するような場合、長くなる程、その業務性は部分的に否定される傾向にある。)
③帰宅手段(車、バイク、電車等)、経路及び会合終了後からの時間の経過はどのようなものか。
等の要素を総合的に検討した上で可否が別れています。
2)そして、御質問の件では、当該懇親会への参加が、事実上の強制参加であったり、任意の者が一次会の懇親会終了の後に、二次会に流れた上での事故ではないような場合、当該懇親会が行なわれた店から最寄の駅へ徒歩で向う途中で遭遇した事故であったような場合であれば、労災保険給付が認められる可能性が高いと思われます。具体的なことについては御相談いただきたいと思います。
私は、現在求職中ですが、新聞、就職情報誌等で、「正社員」とか、「派遣労働」という記載がありますが、どのようなところが異なるのでしょうか?また「請負」という働き方もあるようですが、それも併せて、説明して下さい。
1)働く人が現実に行う労働作業は同じであっても、その働く人がどのような契約形式に基づいて働くかによって、賃金の請求先、誰からの指揮命令に従うか、請求先が倒産したような場合の保護のあり方、社会保険、失業保険等の加入方法等が異なります。御質問の3つの形態以外にも、働き方の契約方式は存在しており、3つの形態においても、その中で、さらに細かく分かれるのですが、説明の便宜のため、3つの御質問の形式について、概要を説明したいと思います。
2)各形式の法的定義
a.正社員
正社員という用語は、正規の法的用語ではなく、一般に労働契約に基づき働く労働者のうち、契約期間について、期間の定めがない労働者を指すことが多く、アルバイト、派遣社員等の非正規雇用社員と対比して使用されています。その契約形式のほとんどは、民法の雇用(民法623条以下)、労働基準法、労働契約法によって律せられるのが原則です。そして、労働契約とは労働基準法が適用される労務供給契約と定義づけられるとされています。
b.派遣労働
派遣労働という用語は、①で述べた正社員もしくは正規社員との対比で、一般的にいわれ、派遣社員という言葉も多く使用されています。その契約形式は、①と同様に労働契約でありますが、労働契約を締結する二当事者(使用者、労働者)以外に、いわゆる派遣先という労働者が現実に就労する先が登場することが特徴的です。
この派遣労働も、①で述べた労働契約でありますので、前に述べた各法律及び特別法としての労働者派遣法の適用を受けるのが原則です。そして、この労働者派遣とは、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し、当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないもの」(労働者派遣法2条1号)と定義されています。
c.請負
この用語は、建築関係の仕事でよく使用されるものでありますが、その関係以外でも、請負というものはあります。 この請負は、正社員、派遣労働といった労働契約ではないことが最大の特徴です。したがって、労働基準法、労働契約法等の適用は原則的にありません。 この請負の定義は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対して、その当事者に報酬を与えることを約する契約(民法632条)といえます。
3)具体的な差異 以上、説明しただけでは、具体的な差異は、理解が難かしいので、いくつかのポイントからの説明を以下にします。

①賃金の請求先
正社員、派遣労働は、労働契約を締結している使用者が請求先で、一般的に賃金もしくは給与という形で支払われます。請負は、発注者である相手方で請負報酬といわれます。

②誰からの指示に従うべきか
正社員の場合については、労働契約を締結している使用者です。派遣労働については、派遣先の企業もしくは個人であるのが原則です。請負の場合は、本来的には、指揮命令を受けるという概念はなく、要は約束した仕事結果を出せば、それで足りるというのが原則となります。

③請求先が倒産したような場合の債権の保護
正社員、派遣労働の賃金債権は、破産法、民事再生法等の倒産法制により、労働債権として通常債権よりも優先されています。一方、請負債権ということになりますと、原則として、このような優先処置はありません。

④社会保険等の加入の仕方
正社員、派遣労働は、例外はありますが、多くは、厚生年金、雇用保険、被用者健康保険に加入します。請負は、独立の事業者として、原則として、国民年金に加入し、雇用保険の対象外であり、国民健康保険に加入します。

以上、概要についての説明をしましたが、注意してもらいたいのは、正社員、派遣労働、請負といった言葉を文言上使用したとしても、現実の契約内容が、それぞれの基本概念と異なっていた場合は、使用された用語に従った法規則を受けるのではなく、実体に則した契約内容と把握され、それにふさわしい法的規制を受けるということです。
実際的に、請負といいながら、事実上、当該使用者の指揮命令を受ける仕事のみを行い、勤務時間も明確に定まっている、給与の額も一方的に使用者の内部基準で決定するような場合は、労働契約と見なされることは少なくありません。具体的に、当該労働条件が、どのような法適用を受けるかということは、御相談いただきたいと思います。
当社は、人材派遣事業の会社から、人材を派遣してもらっています。 ところが、この人が時間にはルーズで、よく遅刻したり、ひどい時は無断で欠勤したりもします。口頭で本人に注意をしますが、なかなか治りません。当社としては、どのような措置をとることができるでしょうか?
まず、労働者派遣法上、派遣先である御社は、自ら派遣労働者を指揮命令して業務に従事させることができる権利を有しておりますので、当然、当該派遣労働者に対し、直接、遅刻、無断欠勤しないよう要求することができます。
それでも是正されない場合、御社と派遣先の人材派遣事業者間で締結されることになっている労働者派遣契約(労働者派遣法第26条)で、ほとんどの場合、派遣先の業務上の指揮命令に従わない、もしくは著しく業務能率が低いような際には、派遣される労働者の交代を求めることができる条項がありますので、これに基づき、交代を求めるべきでしょう。
人材派遣事業者側が、それでも交代に応じないようであれば、基本となる労働者派遣契約の債務不履行(不完全履行)を人材派遣業者は、行っていることになりますので、契約解除ができ、もし、当該派遣労働者の遅刻、無断欠勤によって損害が発生するような場合は、損害賠償を派遣業者に対して原則的にできるといえましょう。
私は、人材派遣という形で就労先で勤務していますが、この度、派遣された先で、身元保証人に私の親族がなることを求められました。 このようなことは、初めてですが、応じなくてはいけないでしょうか?
一般に派遣労働ではなく、通常の労働契約の場合、労働者が使用者と労働契約を締結し、いわゆる入社する際に、身元保証人を付することを要求されていることは、我が国においては、多く見られます。
しかし、派遣労働の場合、労働契約の締結当事者は、あくまでも当該労働者と派遣元の人材派遣会社であります。
したがって、派遣労働者において、派遣先に対し、身元保証人を付する義務はないといえます。 そして、仮に派遣労働者が何らかの不始末をして、派遣先に損害を与えた場合、派遣先は派遣元に対して、適切な人材を派遣しなかったと判断されるような場合においては、損害賠償を請求することができる可能性があり、勿論、当該不始末をした派遣労働者に不法行為責任が生じる場合は、当該派遣労働者に対しても請求できます。
このような関係において、派遣先が派遣元に対して、損害賠償の請求をし、それに対し、賠償を実行した場合、派遣元が当該派遣労働者に対し、求償権を行使すること及び当該派遣労働者が、派遣元に対し、身元保証人を入れていた場合は、その身元保証人に保証責任を追及することは可能です。 結論として、御質問者が派遣先に対し、直接身元保証人を付す義務はありませんが、派遣元で身元保証人を付していた場合には、身元保証人に対し、責任追及されることになってしまいます。

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